次の文を読み、問いに答えよ。Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、borderlinepersonalitydisorderボーダーラインパーソナリティ症〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに「今すぐ返事が欲しい。私を見捨てるのか」とメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに付き添われて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で神経損傷はなく、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話した。
A さんは興奮が続いたため、精神科医の診察を受け、入院となった。入院後は 担当のB 看護師に何度も声をかけていた。入院3 日の深夜、B 看護師に「パート ナーが電話に出ないので、私の代わりに電話してほしい」と依頼があった。B 看護 師がすぐに対応できないことを伝えると「B さんを私の担当から外してほしい」と複 数の看護師に訴えた。B 看護師は「私が忙しかったから、A さんを怒らせてしまっ た」と話している。 看護チームの対応として適切なのはどれか。2 つ選べ。
公式正答:4・5
解説
担当看護師への要求が通らず担当変更を訴えた患者への対応を2つ選ぶ。カンファレンスでチーム内の看護師の感情を共有すること、日中に時間を決めて話を聞くことを伝えることである。
この問題で問われていること
対人関係の不安定さがスタッフ間に及ぼす影響を理解し、チームとして一貫した対応をとれるか。
しくみから理解する
境界性パーソナリティ症では、相手を理想化と脱価値化の間で揺れ動いて捉えることがあり、これがスタッフ間の分裂(スプリッティング)を生む。ある看護師は責められ、別の看護師は頼られるという構図ができると、チームの対応がばらばらになり、患者はさらに不安定になる。これを防ぐには、各自が抱いた感情(この事例ではB看護師の自責)をカンファレンスで表に出し、共有することが要る。感情を共有すれば、それが個人の落ち度ではなく関係の中で生じる現象だと理解でき、対応を統一できる。あわせて、要求に都度応じるのではなく、日中に時間を決めて話を聞くという枠組みを示すことで、患者は予測可能な形で関わりを得られ、一貫した対応が可能になる。
選択肢ごとの確認
業務量の調整であり、この問題の本質ではない。B看護師の自責は業務の多さから生じたものではなく、関係の中で生じた感情である。またこの対応は、B看護師に非があったと暗に認めることにもなる。
要求に応じて枠組みを変えると、対人関係の不安定さがそのまま治療関係に持ち込まれ、同じことが次の担当者との間で繰り返される。担当の変更は、患者の要求ではなくチームの臨床判断で決める。
患者の要求を看護師が代わりに実行することであり、治療的な枠組みを超えている。またパートナーとの関係の問題に医療者が介入することで、依存と巻き込みが強まる。
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混同しやすいポイント
『患者の希望に応じる=よい看護』とは限らない、という点がこの設問の核心である。枠組みを保つことが、結果として患者を守る。ただし、拒否だけでは関係が切れるため、『できないこと』と同時に『できること』(日中に時間を決めて話を聞く)を示すことが要点になる。
理解を深める
スタッフが陥りやすいのは、患者に強い感情(怒り、無力感、罪悪感、特別扱いしたい気持ち)を抱き、それを一人で抱え込むことである。これは逆転移と呼ばれ、認識して共有すれば、患者理解の手がかりになる。定期的なカンファレンスとスーパービジョンが、チームの機能を保つ仕組みになる。対応の原則は、一貫性、明確な限界設定、予測可能性である。限界を示すときは、罰としてではなく、治療の枠として、穏やかに、理由とともに伝える。この枠組みの中で安定した関係が続くこと自体が、対人関係の修正的な体験になる。夜間の要求が多い背景には、孤独感と不安の高まりがあることも多く、日中の関わりを充実させることが夜間の訴えを減らすことにつながる。
間違えやすい考え方
『2つ選べ』の複数選択で、誤肢が業務調整、要求への追従、代理行為で構成されている。チームの一貫性と枠組みという原則で選ぶ。
5分で振り返る
①理想化と脱価値化がスタッフ間の分裂(スプリッティング)を生む。②各自の感情をカンファレンスで共有し個人の問題にしない。③要求に応じて担当を変えない、判断はチームで行う。④できないことと同時にできることを示す。⑤原則は一貫性・限界設定・予測可能性。⑥日中の関わりの充実が夜間の訴えを減らす。
1分チェック
- スタッフ間で対応が割れそうなとき何をするか。→ 感情をカンファレンスで共有し、枠組みを決めて一貫した対応をとる。
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